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執筆者の写真広瀬 愛理

SDGsカフェ 〜未来の交通〜

今回は、「2030年の金沢の交通はどうなっていて欲しいか?」ということを、人々の幸せや魅力のあるまちづくりと関連付けて、市民目線から議論しました。

IMAGINEしてくださったのは、金沢レンタサイクル「まちのり」の仕掛け人でその事務局の片岸将広さん(株式会社日本海コンサルタント)。片岸さんは自転車だけでなく、国内外の交通全般の事例に精通されています。そしてアイデア提供をいただいたのは「トランジション・マネジメント(transition management)」の第一人者で、オランダから来日したDerk Loorbachさん(エラスムス大学教授・オランダトランジション研究所所長)。通訳・コーディネーターとして松浦 正浩さん(明治大学専門職大学院ガバナンス研究科教授)にご協力いただきました。

トランジションとは? 「推移、変遷、移行、過渡期」という意味で、持続可能な未来社会を目指すのであれば、ステークホルダー間の草の根の合意形成ではなく、構造的転換までをも見据えた問題解決の方法論を検討する必要があるとする考え方です。


新たな「まちのり」がまもなくスタート

片岸将広さんが仕掛けた「まちのり」は、今年の1月13日まで8年間運用し、総利用回数は1,239,000回、総利用者数は425,000人にものぼりました。そして3月から第2章が始まりました。

まちのりの詳細は、下記の公式サイトをご覧ください。 https://www.machi-nori.jp

片岸さんは、世界的な流れとして、人が中心となり、SDGsそのものの動きになってきていると言います。そして、交通を考える前に、「町はどうするか?」を皆で考えることが非常に重要だと述べました。


ところで、「なぜ、モビリティは必要なのか?」

そもそも、移動の発生源は、土地利用による活動です。よって、交通は人々の活動を満たすためのものです。片岸さんが調査をされたスペインのバルセロナでは、バイクシェアリングが既に定着しています。そして、「なぜモビリティが必要か?」という質問に対し、交通事業者はいずれも「Happiness/人々の幸せのため」と答えたそうです。日本では、採算が取れないなどとネガティブな考えが先行しがちと言う片岸さんは衝撃を受けたそうです。

人々のハピネスのためにモビリティは必要

以下がハピネスを支える3つのポイントです。

①Accessibility:多様な人々によるそれぞれの活動へのアクセス性の向上

②Multi-modal:人々のアクセシビリティ(利用しやすさ)に配慮した多様な交通モードの連携

③Integration:土地利用、福祉、環境、観光等の各種政策との連動を考慮した交通政策の展開(交通事業者だけでなくいろんな都市政策を統合的にやらないと意味がない)

現地ではバス路線網の集約と乗り換え案内の簡略化によって「乗り換えの抵抗の低減」も図られました。そして、③のように、分野の枠を超えた交通政策の方向性が示されています。 人々の活動を支え、幸せへとアクセスするための手段=モビリティではないかと、片岸さんは考えます。

では、ハピネスの観点から金沢のまちや交通はどうでしょうか?

片岸さんは、交通やまちづくりでアイデア実現が難しい理由として、様々な立場の人々が、ハピネスのような“共通のビジョン”が共有できていないからだと考ています。しかし、金沢SDGsの5つの方向性にある、環境の部分、社会の部分に基づいた議論に期待を寄せます。


2030年の金沢の交通をイマジンする

テクノロジーは理念を実現する手段と考える片岸さんは「人中心の都市・交通の実現に向けてテクノロジーをフル活用」すべきではないかと言います。

金沢の都市と交通2030について、「個人的な妄想」と断りつつ、次の5つを提言しました。

  • 金沢のまちなかは「スローモビリティ優先」

  • 基幹路線には「超カッコいい車両」を導入

  • 地域交通は「デマンド」&「シェア」でカバー(動きたいときに動ける)

  • まちなか周辺に複数の「モビリティセンター」

  • MaaSの概念に基づく「使いやすい仕組み」

自分がまちを楽しみ、「大切にしたい金沢の魅力やアクティビティとは何か? 金沢ならではの幸せポイントは?」を、各々考えることが大事だと言います。その上で、ハピネス実現のため、市民も観光客も移動すること自体を楽しめるような、「人中心の世界都市・金沢」へと変遷している2030年を考えてくださいました。


その研究の第一人者が語るトランジションの起こし方

では、モビリティを再構築をどうするのか? 都市の持続可能性を高めるため、研究するだけでなく、実践にも関わっているというDerk Loorbachさんからアイデアの提供をいただきました。「大きな問題があり、解決策があることもわかっているのですが、実際にできていません。そこの大きな変革をどうやって動かすか? トランジションの研究では、そこに軸が置かれます」(Derkさん)

その研究は、「なぜ変わらないのか? そしてどういう風に変わっていけるのか?」を考えることだそうです。トランジション・マネジメント等と言われるものは、変革の流れを起こす繋がりを作っていくこと以外に、「そうした変化ができると言うことを信じる人たちを増やす計画」もあると言います。

変化を目に見せることで広がっていく

例えば、金沢に自動車社会があるとすると渋滞→道路の拡幅→渋滞と、解決策が更なる問題を起こしてしまうことがあります。しかし、いつも、この問題の解決を考えて行動する人たちがいます。最初は変だと思われたとしても、仲間が増えていく傾向が出てくるそうです。それが増えていくと、金沢で自転車通行レーンが増えてきたように、将来の当たり前みたいな物が目に見え始めると言います。

最初は一人でも、仲間を作って中心的な存在になることで、トランジションが始まると言います。「どういう未来を求めるか? そのためにいま何ができるのか?」を考えて、いま何をするのかを考えることがポイント。できることが目に見えるようになることで、変化が起きるのです。また、そこでの活動だけでなく、自分の組織に戻り、組織として何か動く機会を作ってもらうことも狙っているそうです。未来の姿から逆算して現在できることを考える(バックキャスティングという)こと。これは考え方を変えさせることで、全体的な大いなる変化を巻き起こすそうです。


通行止めにした通りが公園へと変わっていく

ゲントではモビリティの分野で、「リビングストリート」という取り組みがあります。夏の間の2ヶ月間、通りを通行止めにして、そこを公園のような空間として活用してもらう活動です。紆余曲折がありながらも、その良さが伝わってヨーロッパ全体に広がりました。モビリティの概念において、インフラ・交通手段→人・ハピネスへと、大きな変化がみられるそうです。ロッテルダムで行った際には、貧困層の人が排除されているという問題が出てきました。これに対し社会福祉の問題として捉え、無償で自転車を提供することになりました。

トランジションを行ったことで、今までは急激な変化を好まなかった役人(政策担当者)が、実験をやってみようという気持ちに変わっているそうです。「問題が起こったらそれを解決する」発想から、「わざと問題を起こして解決策を施していく」考え方にシフトしていると言います。例えば、電動自転車の普及による自転車渋滞が発生した際、その解決を政治家が官僚に求めるようになり、問題解決へと動き出せることです。自転車道の拡幅、渋滞時の青信号を長くする自転車用信号の設置等があります。一方で、まちなかの駐車料金を郊外より高くし、まちなかへの車の乗り入れを制御しているそうです。

交通部門のゼロエミッションに向けて

パリ協定の「気温上昇を1.5度までに抑える」。そのためには、2030年までに交通部門からゼロエミッションにしていかなければければいけません。トランジションというのは、既に活動を始めている人を巻き込んでいくこと以外に、役所がサポートすることも大事だと強調します。サポートすることで、役所側も刺激を受け、また計画に反映させていける、その循環も必要です。

誰か一人を説得していくのではなく、いろいろな人たちを集めてやってみるというのが大事。よく失敗するのは、プレッシャーに感じてしまうことで、トランジションは長期的に起こるので、少なくとも何か変える方向にやってみることがポイントと述べ、話を締め括りました。


金沢SDGs IMAGINE KANAZAWA 2030の公式サイトができました。今後のSDGsカフェの予定なども掲載されますので、ぜひチェックしてください。


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